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デザインとは? その定義について考える―ポール・ランド デザインの授業

慶応大学にシステムデザインマネジメント (SDM)という研究科がある。IDEOのデザイン思考をベースとして、更にシステム・デザインを取り込んだ独自のカリキュラムを通してイノベーションデザインを学ぶことができる大学院である。

もう3年ほど前になるが、社内研修がきっかけそこで半年ほどこのカリキュラムを学ぶ機会があった。

そこで学んだ結果として、私は

デザインとは課題解決である

という自分なりの定義を持つことができた。この定義は特段オリジナリティのあるものではなく、様々な場所で他にも目にするものだと思う。そもそもIDEOが提唱するデザイン思考が、この定義をベースに観察、着想からプロトタイプまでのデザインプロセスを組み立てている。

これは非常に有益な定義であり、このようなアプローチはリーン・スタートアップやアジャイル開発などにも見て取ることができる。また、多くの人にデザインというものは、グラフィックやプロダクトの装飾を行う人のことではなく、より広くデザインというものが存在し、それに関わる人はデザイナーであるという啓蒙をもたらすと思う。

しかし実際にやってみるとわかるが、この定義はもっと具体的な活動において(少なくとも私にとって)あまり有益ではない。たとえば、あるアプリケーションのデザインをしようと思った時、このデザインの定義だけではアプリケーションのデザインをやり切ることができない。UIはどうすればいいのか、どのプラットフォームでやるのか、課金するかどうかなど、課題はたくさんあるがそれらを解きほぐすための基礎になるようなことはない。

つまりデザイン思考から得た私のデザインの定義はやや抽象度が高い、もしくはまだ曖昧で、より具体的な活動ではもうひとつ踏み込んだデザインの認識が必要だと感じるようになった。

デザインはあらゆる要素の関係を操作し、よりよい関係を創ること

私は、より具体的な活動でも拠り所となるデザインの定義をこう結論付けたいと思う。

ここでは、「ポール・ランド デザインの授業」から、その定義について考えてみたい。

ポール・ランドは20世紀を代表するアメリカのグラフィックデザイナーで、IBMのロゴなどをデザインしたことで有名なデザイナーである。また、熱心なデザインの教育者としても知られている。

ちなみに私は美術畑の人間ではないし、実際この高名なグラフィックデザイナーのことはまったく知らなかった。

この書籍は、ポール・ランド自身が執筆したものではないが、彼が行った授業や対談の記録になっている。彼はその対話の中で、

デザインとは形と中身の関係である

Design is a relationship between form and content.

と述べている。

彼によると、中身とはアイデアのことであり、形はそのアイデアをどう処理するか、どう扱うかだという。

いい変えて、

デザインとは形と中身の操作である

とも述べている。

これは、アイデアとそれを扱う方法の両方について取り組むということを述べているといえる。だが、デザインとはその関係であるわけだから、アイデアとそれをどう扱うか、どう考えるかということに取り組むことによって行っていることは、それらの関係そのものを操作していることになると考えるとシンプルになる。

つまり、意識するべき対象はあらゆる要素の「関係」だということを述べていると解釈できる。

もちろん彼は、グラフィックだけでなくより広くデザインを捉えて、

すべてのものはデザインだ。

Everything is design.

と述べている。これまでの彼のデザインの定義はすべての事柄に適用できると考えられているし、実際それくらい本質的であると思う。

すべてのものがデザインだとすると、形と中身はどこへ行ってしまったのか。こう考えるとシンプルにまとまると思う。

デザインとはあらゆるものの関係のことである。「関係」は名詞だ。つまり行うものではない。関係というのはあらゆるところに存在している。例えを引用すると、

君のメガネは丸い。襟は斜めになっている。

ということだ。でもこれだけは少しわかりにくい。例えば今座っている自分の椅子を見てみる。うちの椅子は木製だ。この椅子は木と革がそれぞれ、14のパーツからできていて、それぞれが形をもち、色を持ち、組み合わさることで「椅子」というものができている。これがすべて「関係」だと言える。木や革の関係から椅子が、いや私という存在との関係から初めて椅子という関係が生まれているかもしれない。これがデザインとしての「関係」ということになる。

そして、この関係が「あまりよくない」ところが「課題」であり、その解のベースとなるのがアイデアだ。デザインの定義には良し悪しは含まれていないが、デザインの良し悪しは確かに存在し、それは定義に従えば「関係の良し悪し」だと言い換えることができる。

この課題を解きほぐすことが「デザインする」ということだ。「デザイン」が「デザインする」という動詞になったとき、それは関係を操作するということになる。それはすなわち関係があまりよくないところの関係を操作することで、よりよい関係にしていく活動すべてだと理解できる。

具体的な活動の指針となるデザインの定義として

これまで述べてきたデザインの定義は、紹介した書籍に書かれていると思う。自分なりに解釈しているが、自分にとっては正しい定義を得ることができたと思う。

さて、この新しいデザインの定義は、具体的な活動の指針になりうるのか。もちろん答えはYesだ。

例えば、最初のアプリケーションの例を取り上げてみよう。アプリケーションのUIをデザインするときは、ユーザとアプリケーションの関係を、もう少し細かく言うと、ボタンとユーザ、もしくは情報とユーザの関係を考えるという指針でアプローチできる。「課題解決」という曖昧な定義よりも、自分が今何をしているのかという認識がとてもクリアになっていると思う。

どのような色、どのようなカタチ、プロセスや技術の選定でも、すべての課題で迷った時、ここに戻ってくることができる。「今、何の関係について考えているのか」に戻ってくれば、そのよりよい関係に向けて活動を方向づけることができる。

では、よりよい関係とはなにか?

その答えはないと思う。だからとても難しく、とても楽しいのだと思う。だから常に考え続ける必要があるし、また学び続ける必要があると思う。

よりよい関係を見抜く力を、「センスがいい」という。これはよい関係に多く触れることで養う事ができると思っている。だから、一流といわれるサービスを味わってみたり、自分の業界のベスト・プラクティスを学んだりすることの意味に通じてくる。

UIならUIのそういった知識が必要になるし、組織なら組織、技術なら技術の知識が必要になる。それはすべてよりよい関係を見抜く力、そしてつくる力をつけるためのトレーニングだと考えることができるだろう。

システムとデザインの定義における一致性

最後になるが、実はこの関係を表す別の言葉がある。それが「システム」だ。実は慶応大学のSDMでもシステム思考という考え方を提唱している。

システム思考とは、すべてのものをシステムとして捉えて考えるというアプローチだ。システムとは関係であり、すべてのものは関係からできていると考える。まさにポールのデザインの定義と同じだ。

システム思考については、「思考脳力の作り方」という本が出ておりそちらに詳しく書かれている。

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2015/1/20 Tumblrより転載

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